3日目の試合にはKABBALAHERSとmariachiの組み合わせがあり、前者は幹久と子供2人のチーム。
遅刻登場したKABBALAHERSの子供達が連れている兵器を見て彼は楽しそうに笑った。
「あれ、喰わせたいな」
と。
どうでも良い事だけれど、この試合は幹久1人で敵チームを倒し終了。
そんな事は本当に些細な事。
今考えるべきはそんな些細な事でない。
「トーキョーの無人島旧日本軍要塞跡――研究施設、兵舎・病院、司令塔に弾薬庫。一見平和そうに見えるこの島にも戦争の傷跡は残るか……ちっちぇえな」
「そうね」
人間は蝕むことしか知らないから。
「ハオさま、いまタオレンいきかえった」
「――となると、葉様の辞退はこれでほぼ確定したという事になりますね」
「X-LAWSのくだらねえ約束なんざ、いちいち守るこたねェのになあ」
「なんなら今からでも潰しにいきますよ、X-LAWS」
ラキスト、ザンチン、ペヨーテが言うと、彼は立ち上がりマントを靡かせ応じる。
「……その必要はないよ。葉の狙いは僕一人だ。いずれにせよシャーマンキングになるのは僕という結果に変わりはないからね。少々楽しみは減ってしまったけど、必ずあいつは帰ってくる。僕と、一つになるために」
「ハオさま、ビッグガイ・ビルとブロッケン、たおしいったアイスメンにホロホロくわわった」
「 ちっちぇえな 」
X-LAWS……どこまでも気に入らない連中。
私の周囲でちょろちょろと、たかが羽虫の分際で。
「散歩に出るわ」
「ああ、気をつけて行くんだよ」
紅葉が去って、ラキストが口を開く。
「よろしいのですか……?」
誰もが去る寸前の紅葉が殺気立っていた事に気付いていて、ラキストは謂わば代表。
あの様子ではその足でX-LAWSを潰しに行ってもおかしくはない、そう感じたのだろう。
「彼女は何より偽善者が嫌いだからね――色々と思うところがあったんだろう。だけど大丈夫さ、紅葉はバカじゃない」
本当の正義ならば、交換条件など出さず蓮を生き返らせていただろうに。
それが何よりも気に入らないのは分かっている。
だから一人で行かせたんだ。
万一怒らせでもしたら、それこそ僕が相手でも攻撃してくるかもしれないし、一人になりたいだけだろうから。
***
「海に行きたい」
【ああ】
こんなに不快で心が混沌へ沈もうとするのは500年前以来かしら。
やっぱり人口が多すぎるというのが一番の理由でしょうね……まったく迷惑な話だわ。
以前にも増して自称正義共が気に障るし、神経過敏になっているのは間違いない。
「ああ、気に入らない」
人間っていつもそう。
自分の都合で他人の心を殺すのよ。
正義を語るくせに、蓮を生き返らせる代償に辞退を強要するなんて。
『お前が贄になってくれれば村は救われるのだ』
『すまないね』
謝るくらいならお前がなれば良いじゃない。
結局思ってることは皆同じ。
――これで自分が贄になる必要はなくなる――
毒を吐き出すように深呼吸しながら、のんびり歩いて海に向かう。
そう言えば、アイスメンは帰るために海にいるんだったかしら? ということはブロッケンとビルもそこに……まぁ良いわ、そんな事どうだって。
海にさえ潜ってしまえば何も届かぬ静寂に包まれ、私を鎮める事ができるのだから。
「全く、ファイトなんてさっさと終わってしまえば良いのに。王になるのは彼だと決まっているんだから」
心底この思念の多さにはうんざりする、どれだけ私の心を壊せば気が済むのか。
耳を塞いで聞こえなくなれば良い――どちらにせよ結果無意味だけれど、ここまで多いといつかの様に耳を塞ぐ気にもならない。
砂浜に到達してすぐ、激しい思念が届いてきた。
私が見ている位置からずっと奧に連中はいるようで、ブロッケンとホロホロの巫力を強く感じる。
1対1でやりあっているらしい。まだ狩り終わっていないとは流石に思わなかった。
潜ろうかと思っていたけれど、放置もできないかと半ば投げやりに視認できる位置まで到着したのは、ホロホロがブロッケンを氷に閉じ込めた所だった。
まるで私達の使う水牢のようだわ、中も海水で満たされているし。
「しかしどうすりゃいいんだICEMEN、とりあえずケガはファウストに診てもらうとしても、オレぁもうヘトヘトで連れてってやれねェからな」
アイスメンの前にしゃがみ、悩むホロホロの後方で音なく起き上がるビル。
近づいてくる思念はビルがオーバーソウルしたと同時、更に近づきビルは倒された。正に一瞬の出来事だ。
数歩前に出ればホロホロと、ホロホロを救ったそいつは私に気付き、目を見開いて名前を呼んでくる。
「紅葉……」
「紅葉さん」
久しぶりに海を堪能させてあげようと潜らせていたクラナソスがタイミングよく戻ると二人は表情を強ばらせ、ホロホロを救ったそいつ――リゼルグ・ダイゼルは身構えた。
私は視線をホロホロに敗れたブロッケンに向ける。
助けを求めるような思念があったら見捨てようかと思ったのに、まあ良いわ。
「アイツ助けてやって。溺れ死んじゃうわ」
まあ、私はそれでも全然構わないのだけれど。
半身半蛇の状態でO・S、クラナソスが尾でブロッケンの囚われている氷を指し示すと、中に溜まっている海水が一気に嵩を増し、音を立てて中から氷を割った。
「ハ、ハァ……ハァッ……」
「礼は要らないわブロッケン。お前は私のチームメイトで、彼の仲間だもの。……ふふ、ビルも見事にやられたものね、無様だこと」
ジャリとリゼルグが砂を鳴らして、ブロッケンを見下ろしていた視線を二人に向ける。
「何をしてるの? せっかく逃げる時間をあげたのに」
「……!?」
「どうし……」
リゼルグの言葉を止めたのは水剣。
眼球すれすれの位置に鋭い先端があれば、言葉も止まる。
ホロホロは慌てるが、巫力を使い果たしているらしく何も出来ない。
「私の気が変わらない内に帰りなさいな。まだ死にたくはないのでしょう?」
ずしり、と二人は身に大岩でも乗ったような圧力を感じた。
冷や汗が止まらない、何て巫力だ。
ダメだ――今日の紅葉は機嫌が悪い、これ以上ここにいたらいとも簡単に殺される。
2人は漠然とそう感じて、天使にアイスメンを乗せてリゼルグとホロホロはその場を離れた。
ブロッケンと瀕死のビル、それから私だけが海岸に残り、特に何をするでもなく波の音に耳を傾けているとザンチン・ペヨーテ・ターバインの3人がやってきた。
「紅葉様、何故こちらに……?」
「散歩してたら見かけたのよ。ビルならギリギリ生きてるわ、ブロッケンもそろそろ落ちついた頃かしら、溺死させられかけてたんだけど」
全く迷惑な話よね、あの程度の相手に殺されかけるだなんて。
生き返らせられるとかそういう問題じゃない、あまりに弱いと蘇生に使う巫力が勿体なく感じてしまうわ。
どうせ人数合わせのチームメイトだし、結局いつかは辞退するんだもの。
「ハハハ、ザコの魂狩りで返り討ちとはザマァねェなビッグガイ・ビル」
「だがこれでビルの巫力はまた上がる」
ザンチンは気を失っているビルを笑う。
そしてターバインの言葉はその通り、巫力が上がればオーバーソウルは強くなる。
「フン! 弱ェくせにタフさだけが売りっつうのも得なもんだ。まあもっとも――巫力だけなんぼあっても全然意味のねェ奴だっているけどな」
それには激しく同意ね。
「ぼ……僕は敵を少しナメすぎただけだ。ひがむヒマがあるなら君も巫力を上げてから言ったらどうだね、ザンチン君」
敵を甘く見るのは弱い証拠よ。
「へへ……オレぁてめェみてェにマゾッ気はねェんだよ」
「紅葉様の手まで煩わせるとは揃いも揃って情けない……」
私はそんなの気にしないけれど。
それより何度聞いても変な感じだわ、様付けって。
千年前には同じように呼ばれもしたけれど、その声には畏怖が含まれていたし、今とは違い縦社会としての強制だったから。